井の外の蛙

アメリカ在住15年エンジニアから見た日本

学歴の話つづき

アメリカでは学歴も大事というをしましたが、少なくとも理系は大学名に加えて最終学歴、つまり学士・修士・博士のどの学位を持っているかも大事です。

日本企業の場合、学位の種類は仕事の内容とあまり関係なく、初任給も年齢が高い分高いだけ。そのうえ博士号取得者は扱いにくいと思われているのでは、大学院に行く学生が少ないのも当たり前です。これはジョブ型雇用が一般的でないのと関係しているのでしょう。誰がどの仕事に割り当てられるかわからないようなシステムでは、全員が同じ教育を受けていた方が楽に決まっています。

アメリカの場合、どの学位を持っているかによって給料はもちろん、仕事の内容も違います。学士だけだと日本の総合職に近い感じで、いろいろな仕事を下働きからやらされますが、修士・博士と上がるにつれて専門性の高い仕事を任せられます。給料にも学士の人がいくら経験を積んでも越えられない壁がありますから、大学卒業後いったん就職してからキャリアップのため大学院に入りなおす人も多いです。

文科省は何度も博士号取得者を増やす施策を何度も打ち出してきましたが、うまくいった試しがありません。場当たり的な支援だけで、博士号を生かせ、かつ安定した就職先を増やす施策がないのでは当たり前です。大学のパーマネントポストを増やす(そもそも増えた博士課程学生を誰が指導するのか?)、企業の雇用慣行を変えるのが先ではないでしょうか。

退職代行!?

ゴールデンウィーク明けで退職代行業者が繁盛しているとか。ちょっとここまで日本らしいニュースも少ないですね。

アメリカではレイオフだとその日でクビのこともありますが、自己都合退職の場合は2週間程度前までに会社に通告することになっている雇用契約が多いと思います。ただ転職はごく普通のことなので、会社に言いづらいということは考えにくいです。さすがに1か月ちょっとで辞めると「どうしたの?」ということになるとは思いますが。

まだ研修が終わったか終わらないかぐらいのタイミングで辞めるというのは、よほど会社と合っていなかったのでしょうが、これは日本型雇用のいろいろな弊害が出ているように思います。

まず新卒一括採用。採用する側は一人一人に割くリソースが小さくなりますし、採用される側もじっくり考えることができません。自分の専門分野というものがないので、同期と比較してしまうことも多いでしょう。

形だけのインターンシップも問題。学生の側も企業で働くというのがどういうことかよくわからずに就職することになります。アメリカの場合、インターンシップは夏休みなどを使って最低でも3か月以上、一部業界を除き給料もそれなりに出ます。当然、会社見学や説明だけで終わるはずはなく、きっちり仕事をさせられます。

そしていまだに根強く残る終身雇用の意識。こんな会社に一生いると思うとうんざりしますが、いつでも辞められるのであれば技術だけ吸収して出て行ってやろう、と開き直れるのではないでしょうか。

私ぐらいの年代の人に言わせると最近の新入社員は甘い、ということになるのでしょうが、世界の変化についていけず衰退しているのが今の日本だということを自覚すべきでしょう。

アメリカ軍の話

たまにアメリカに永住している日本人女性に会うと、かなりの確率でアメリカの現役か退役軍人と結婚しています。息子・兄弟が日本の基地にいる・いたという話もしょっちゅう聞きます。それだけアメリカ軍の存在は日本で身近なのです。

現状では実質アメリカの属国だなどと文句を言う人もいますが、現実問題としてアメリカ軍が撤退した場合に日本がちゃんと自衛できるかというと、まず無理でしょう。中国の目は今のところ台湾に向いていますが、もし香港みたいに台湾を手の内に収めたらどうなるかはわかりません。ロシアも今はそれどころではないでしょうが、領土問題を抱えているという点では日本もウクライナと同じ。そもそも憲法で日本が軍隊を持てなくしたのはアメリカなのですから、遠慮せず頼ればよいのです。それでも自前で防衛するというなら、徴兵制導入を含め相当な覚悟が必要だと思います。

もしかしてアメリカには撤退してもらって中国かロシアの属国になりたい、ということなのでしょうか。アメリカにもトランプやトランプ支持層の一部など、ああいう独裁者にあこがれる人たちがいるようですが、案外日本にもいるのかもしれません。でもそうなったら私は老後日本には帰らないでしょうね。

カンニングの話

早稲田大学の入試で、スマートグラスを使ったカンニング事件が発覚しました。テクノロジーの進化で今後さらにカンニングの発見が難しくなるのではという話になっているようですが、いっそのことネットで聞いただけで解答できるような試験による選抜はやめたらどうでしょうか。

以前の記事にも書いたように、アメリカの大学にはいわゆる入試というものがありません。一応、嘘の課外活動実績を並べたり、エッセーを他人に書いてもらったりということは可能ですが(実際お金を出してスポーツの実績を捏造してもらったという事件がありました)、大学には入学者選抜専門のスタッフがおり、すぐばれます(たぶん)。そもそも受験生を一つの物差しで測って選ぶわけではないので、どこかでずるをしても必ず合格できるわけではないのです。

すぐアメリカ式にするのは無理としても、論理的な思考力を測るような、答えが一つではない問題にすればカンニングそのものが成立しなくなります。

そんな入試だと公平でないという文句が出てくのでしょうが、大学は自分たちの欲しい学生像に合った学生を入学させればよいのであって、それが必ずしも試験の点数の良い学生とは限らないはずです。実際企業の採用基準はものすごく曖昧ですが、不公平だという話は出ません。

大学入試が変われば、高校までの教育も変わって、もっと面白い人材が育つと思うのですが、実際のところ難しいのでしょうねえ。

学歴とコネの話

アメリカは実力社会、学歴もコネも関係ないと思っている日本人もいるかもしれませんが、現実は全くの正反対です。飛び抜けた才能を持つごく一部の人を除く凡人が使える武器は学歴とコネぐらいしかありません。だからこそアメリカでもみんなアイビーリーグを初めとする有名大学を目指し、学歴とともに卒業生のネットワークというコネを手に入れようとするのです。

日本では学歴フィルターやコネ入社が悪いことのように言われたりしますが、他所(大学)がすでにスクリーニング(入試)してくれた結果を考慮するのは理にかなっていますし、書類や面接でしか判断できない人より多少とも知っている人を優先したくなるのは当然です。問題になるとすれば、大学の選考基準と会社で欲しい人材の基準が一致しない場合ぐらいでしょう。

ただアメリカの場合入社してからは実力主義年功序列や、仕事がなくなっても置いといてもらえるなどということはありませんので、お間違えなきよう。

お客様は神様?

最近ようやくカスハラ対策を始めた企業もあるようですが、「お客様は神様」というメンタリティーが日本の生きづらさの大きな原因になっているのではないかと思います。

引退した人たちを除き、お客様の立場だけで日常を過ごせる人はいません。みんな何かしらの形でサービスなりモノなりを売って生きているわけで、どこかでお客様の相手をする必要があります。例えば製品開発においてもお客様の要求を意識しないわけにはいきません。そうすると、お客様の「自分は神様だ」という意識が巡り巡って自分のところに返ってくるわけです。自分だってお客様を神様として扱っているのだから、自分がお客様のときは神様として扱ってほしい、という正のフィードバックが社会全体で働いているのではないでしょうか。

外国人が旅行で日本へ行く分には神様扱いしてもらえるのですから、大好きになるのは当たり前です。ところが日本に住んで働き始めると逆に神様に対応しなければならなくなり、そのギャップに幻滅するわけです。私もたまに日本へ帰ると、確かに接客がものすごく丁寧で快適なのですが、自分が逆の立場になったときのことを考えると恐ろしくなります。

アメリカでは、売る側も提供するモノに対する対価を受け取っているだけだから、客とは対等の立場です。もちろん無理な要求をする客もいますが、たいていはねつけられて終わり。むしろフレンドリーに接した方が多少の無理は聞いてくれやすい感じです。ただ相応のお金を積めば神様扱いしてくれるところはありますが。

日本でも、もう少し互いを対等に扱えばあまりギスギスせず生きやすい社会になるのではないでしょうか。

政権交代の話

アメリカは11月に大統領選を控えています。アメリカの場合政権交代は普通のこととはいえ、最近民主党共和党の政策の隔たりが大きくなってきているし、トランプはかなり予測不能のところがあるので、影響は今までの政権交代よりも大きくなると思います。もっとも私は選挙権がないので指をくわえて見ているだけですが。

翻って日本でも自民党の裏金問題をきっかけに久しぶりの政権交代かという話になっています。仮に記載漏れの裏金に課税できたとしても数億円程度、日本の年間国家予算の0.01%にもならないような問題が主な争点になるのもどうかと思いますが、たまには政権交代ぐらいして掻き回すのもありでしょう。

一党がこんなに長く政権を続けるというのは、中国やロシアを見ればわかるように政権党が相当頑張らなければできないことのはずです。ところが自民党はそこまで頑張っているようには見えませんし、国民は自民党に対して不満はあっても抑圧されているという意識はないと思います。ほぼ単一の民族で構成されているせいか、国民全員が何となく同じような方向を向いているということなのでしょう。だとすれば政権交代が起こってもアメリカほどの変化はなさそうです。

ただ今の日本経済にはこれまでのような体力はありません。どこが政権を取るにしても、生半可な知識で新しいことをやろうとして日本を沈没させるのはやめていただきたいと思います。